《No. 44》日本の地下鉄車両がワシントンを走る?

 この夏、久しぶりに帰国して体験した113年ぶりという東京の暑さは、たいへんなものでした。しかし、ワシントンでの生活と打って変わって、自動車を使わず、大汗をかきながらも、地下鉄で移動する日々で感じたのは、東京の地下鉄の安心感でした。


 運行時間の正確さ、ユーザーにとって懇切丁寧な各種表示、切符やパスを購入する自動販売機の便利さ・信頼度の高さ、細分化されて網の目のように広がる出入り口、などなど列挙していけばきりがありません。ワシントンは、全米でも第3位といわれる地下鉄網を張り巡らした都市ということですが、東京との比較においては、利用者からの視点からみれば、雲泥の差があります。


 昨年6月、ワシントンで起きた地下鉄事故では、7名もの人命が失われ60名以上の負傷者が出る大惨事があり、その事故調査委員会の報告がこの8月に発表されたばかりでした。自動制御装置の問題で、最新型車両とシステムになっていれば防げたはずというものだったのです。


 私自身、東京でもワシントンでも地下鉄をよく利用するので、日本の川崎重工がワシントンDCを走る地下鉄車両の受注をしたというニュースは、たいへん嬉しいものでした。

http://www.khi.co.jp/khi_news/2010data/c3100528-1.htm

 そんなとき、ワシントン首都圏交通局WMATA(“ウォーマタ”と発音します)から、連絡がきました。今回の車両発注を期に、日本に役員たちが出張するが、これまで日本のことは何も知らなかったので、出張前にぜひ日本の基礎知識について学びたいというのです。できれば簡単なビジネスマナー(名刺交換や挨拶など)も教えてもらいたいと。


 日本の車両製造の高い技術力と価格の競争力を評価したからこそ、今回の発注になったというだけでなく、さらにはビジネスの相手国の日本文化について学びたいという意欲をもってくれたことに、むしろ私たちは感謝の念すら覚えたのでした。


 折りしも、昨年来リコール騒ぎで信頼が失墜していたと思われていた日本車でしたが、むしろ問題はユーザーのほうにあった可能性が高いという事実が徐々に明らかになるにしたがって、再び日本企業トヨタのイメージがアップし始めています。


 車両の大量受注をひとつの良いきっかけとして、日本という国家がふたたび「確かな技術力」「高い安全性」という名実を取り戻すことになればと、私たちの文化講習会企画に一段と力が入ったのは、言うまでもありませんでした。その日、結局WMATAの役員は30人近く集まり、その日の講習会は、日本のお弁当を食べる実習付きで、たいへん和やかなものとなりました。


 ワシントン市内の地下鉄駅の名前にもなっている動物園ナショナル・ズーの人気者パンダは、地下鉄切符のイメージキャラクターとして、すっかり定着しています。

 パンダといえば、中国政府からアメリカ市民への贈り物として、ここワシントンでも理解されています。いっそのこと、これも、この7月に広島の動物園から贈られた日本のオオサンショウウオに交替してくれないかしら、と密やかな野望を抱きつつ、近くに住む私は、今週末も朝の散歩に動物園に出かけます。



 ワシントンの地下鉄の駅は、どの駅も同じデザイン。間接照明のために全体に暗い印象で、核シェルターのようにも見えますが、デザインとしては美しくもあります。