《No. 46》最新ファッションに身を包んで30年

 ワシントンの大使公邸で、この夏に発表された外務大臣表彰が、オハイオ州シンシナティ在住のメアリー・バスケットさんに10月4日授与されました。この賞は、日本と諸外国との友好親善に貢献した個人・団体に対して授与されるものです。今年は58名の個人に対して表彰がありました。


http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/22/7/PDF/071201.pdf


 メアリーさんは、シンシナティ美術館で長らく日本美術、とくに近現代の版画を中心に担当していた方で、大学でも教鞭をとるほか、ギャラリーを経営して、アメリカにおける日本の近現代版画の専門家として活躍されてきています。


 日本美術のアメリカにおける振興だけでなく、実は1980年代から、日常的に日本の現代服飾、とくに三宅一生、山本耀司、そして川久保玲のコムデギャルソンのみしか着用しないという生活を30年近く続けていらっしゃるのです。いわば、日本の代表的な先端ファッションを身につけた、歩くマネキンとして暮らしていたと言っても過言ではありません。


 そんなわけで、シンシナティの自宅のクローゼットの中身から選び出したら、そのまま展覧会になったのが、2009年10月から今年4月まで当地テキスタイル美術館で開催されていた「メアリー・バスケット・コレクション;日本の現代ファッション展」だったのでした。


http://www.textilemuseum.org/about/ImageRequestJapaneseFashion.htm


 表彰当日、シンシナティから到着したメアリーさんは、山本耀司の作品を身につけていました(下記の写真、左側がメアリーさん、右は“退屈な”スーツ姿の私)。




 そして、その夜の大臣表彰授与式とレセプションでは、メアリーさんはコムデギャルソンの最新ファッションに身を包んで現れました。伝統的な柄のさまざまな素材の織物のパッチワーク風の超ミニドレスに黒いスパッツ、それにピンクのフラットシューズという大胆な組み合わせです。きれいなシルバーの短髪と赤い縁のユーモラスなメガネが、メアリーさんらしさを強調していました。


(左より、藤崎大使、メアリーさん、メアリーさんのご主人のビル・バスケットさん、藤崎大使夫人)。



 メアリーさんは授賞式後、スライド24点ほど見せながら、3人の日本人デザイナーの衣装のディテールについて、愛情をこめてレクチャーしてくださいました。折りしも、11月3日、文化勲章が三宅一生さんに授与されました。服飾デザイナーとしては、森英恵さんに続いてまだ二人目とのことです。海外にいると、現代日本文化の人気は、もっぱら建築やファッションに集中していることに気がつきます。アメリカだけでなく、世界各地でも同様の現象が起きているのではないでしょうか。


 さて、この日のお客様は、メアリーさんを囲んでファッション談義にいとまがありませんでしたが、このメアリーさんの“コレクション”を可能にした、ご主人のビルさんが「ミスター・バスケット」ならぬ「ミスター・バウチャー(請求書)」として、出席者の女性陣から大人気だったのは予想通りでした。ビルさんの先端的でアバンギャルドなファッションに対する寛容なる理解と、それはそれは大きなお財布があったからこそ、メアリーさんの30年間分の衣装コレクションが形成されたのです。そしてビルさんが、外務大臣表彰をメアリーさん同様に喜んでくれたのは、私たちにとっても嬉しいことでした。