《No.47》共産主義の犠牲者たち;グラーグと労改(ラオガイ)

 ホワイトハウスから北にまっすぐ伸びる16番街は、その都市計画の時代から、教会通りとも、大使館通りとも言われていたそうで、私も運転するのが大好きな美しい通りです。古いれんが造りの教会や中層のアパートが、北上するにしたがって、一戸建ての広い住宅に変わっていきます。メリーランド州に入る寸前には、ゴルフコースもあるようなナショナルパークが管理する公園や、ウォルター・リード陸軍病院の広い敷地が見えてきます。


 さて昨晩は、その16番街にあるリトアニア大使館での催しに行ってきました。ソ連時代のグラーグ(強制収容所)を描いた絵画展のオープニングだったのですが、そのなかに、日本人強制労働者も描かれているから、と友人が誘ってくれたのです。


 画家の名前は、ウクライナ人のニコライ・ゲトマンさん(2004年没)。シベリアの強制収容所で8年を過ごし、故郷に帰って、妻にもひた隠しにしたまま作品を描き続け、40年間で完成したものが50点。ウクライナ独立後も“共産主義”に対する恐怖から、なかなかこの絵の存在を口外しなかったニコライさんですが、自らの死期を感じてぜひとも西側諸国にこの絵を委ねたいと、紆余曲折の後、1997年米国下院でこの50点のコレクションが展示されたのでした。現在、これは当地のシンクタンク、ヘリテージ財団が保有しており、より多くの人の目に触れるべく、今回リトアニア大使館での展示が決まったとのことです。



 リトアニア大使館内に飾られているゲトマンさんの絵画


 実はこの絵画展にあわせて、会場ではトルーマン・レーガン自由勲章受章式も開催されました。主催者は、「共産主義の犠牲者メモリアル財団」です。
http://www.victimsofcommunism.org/


 これまでの受賞者に、米国下院議員時代には、日本に対する従軍慰安婦法案のときに、日本を支援する演説をしてくれたホロコーストの生存者でもあったラントス下院議員、ワレサ元ポーランド大統領、ジェシー・ヘルムズ上院議員、ローマ法王ヨハネパウロ2世などもいます。

 そして今回の受賞者3名のなかに、中国の“労改・ラオガイ”(労働改造所)で19年を過ごし、1985年に40ドルの所持金とともに渡米してきたハリー・ウー(呉弘達)さんがいました。

 例のグラーグの絵画鑑賞に集中していた私は、レセプション会場からマイクを通して「私がここにいる唯一の中国人であり、アジア人であると思います」というスピーチが始まって、思わずそちらのほうに移動したのでした。アジア人ならば、日本人の私もいますよーという気分でした。



会場で受賞のインタビューを受けるウーさん


 不勉強にも、この町に労改基金なるものが存在し、美術館まであるとはまるで知りませんでした。ウーさんは、「“共産主義”は、中国、北朝鮮、ベトナム、キューバに現存しています。私はこの賞を、ラオガイで犠牲になった4000万人の同胞に捧げたい」と、そのスピーチを結びました。


「グラーグ」と「ラオガイ」――。すでに英語として定着し、人々に知られるようになったこれらの不名誉な単語から、忘れられない絵画のイメージとともに、その犠牲者の祈りを新たに見る思いがしました。


○労改基金について http://www.laogai.org/